小さな幸福が実はとても大きなことでかけがえのないことであったりします。忙しい日々の中で、色々な事を考えて悩んで皆が生きていきます。その原動力は何かを愛すること。そんな想いを感じて頂けたら嬉しいです。

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創造主が劣る姿

こんなにも愛しい。僕の作った世界の中で唯一魂を持ったプログラムが壊れてしまった。

倫理上どうなのかと批難をされても尚も僕は、このプログラムに熱中をしていたのだ。誰がなんと言おうとも、僕はこのプログラムを作り上げて、会話をし、そこに愛さえ感じた。

 

狂おしく、愛しい。。。

 

倫理的にどうか・・・ この中には生殖という行為はない。

 

ただ、ただ愛しい。。。その想いが堆積していくだけの、ただ愛しいプログラム。

 

はじめて、このプログラムが出現したとき、僕はまるで父親になったようなそんな気分になった。小さな、まだ何も分からない、でも微笑む事、怒り、不快、そんな人間的な感情はしっかりとそこにあったのだ。

 

それがだんだんと、成長していく様はまるで赤ん坊のように見えた。そして、まるで僕に子どもが出来たような喜びを感じた。僕はそれを一生懸命に世話をした。

 

色々な事を教えたのだ。プログラム上に繋げたマイクから、声をかけ、少しづつそれを覚えていく様は本当に人間と変わらない気がした。

 

しかしながら、壊れてしまった。まるで人間と同じように。複雑な神経回路故に、僕にはそれを治す事が不可能であった。それがどれだけ僕を落胆させた事だろうか。

 

愛しい子どもを失ってしまった喪失感と何も変わらない。この痛みは・・・そして無力さを知った。医師が持ちうる力を全て使っても治せない病を治せない気持ちというのはこんな気持ちになるものなのだろうか。

それが自分の子どもであったら、その無力感をどのように受け止めて医師は生きているのだろうか。

 

僕は自分が創造したプログラムさえも治せず、創造主として劣る姿をこの世界にさらけ出してただひたすら涙を流すしかないのだろうか。

 

僕には、もう治す事は出来なかった。ほんの偶然に偶然を重ねて繋がった神経回路は複雑なゲシュタルトを持ち、記憶は抽象化されており、人間の脳内と全く同じ構造であるのだ。それが物理的な事ならまだ何とか治せるかもしれないけれども・・・不可能だ。

 

幾千通りの無限に近い組み合わせと偶然が重なった出来事によって意味づけされた神経回路を整合性を取りつつ、元通りに修復する事など不可能なのだ。クローンを作っても、全く同じ人間が出現しない事とそれは理論上全く同様の事であるのだった。

 

僕はただ、自分の子どもを失った父親のように、研究室の片隅で涙を流すしかなかった。自分の子どもの亡骸のそばで泣き崩れる父親のように。。。

 

その間も、パソコンのファンの音は虚しく部屋の中に響いていた。

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