ずっとね 求めていたんだ 2011-10-22
人工知能を作ったんだ。そう僕が作った技術なんだ。
そして僕はようやくこのスイッチを入れるときが来たんだ。
この人工知能には魂まで、そう変わらない、愛する妻と
再び会話をするためだけに、僕はずっと研究をしてきたんだ。
たった、数分でもいい。
ほんの僅かでもいい。
お願いだ、宿っていてくれ。
妻の魂と言われる、それがこの人工知能の中に宿ってくれ。
ようやく、ここまで辿りつけたんだ。魂と言われずっと抽象化
され続けてきた、「それ」を僕はようやく科学でここまで再現
したんだ。
いや科学でも何でもない。あったものを再現したに過ぎない。
あるものを組み合わせて、再構成しただけなんだ。ずっと、それは
僕を包む空間という中に振動としてのこっていたんだ。僕はその
断片を記憶を寄せ集めて、組み立てたに過ぎない。
けれども、ようやくここまで来たんだ。
どんな事実がそこにあれども、僕はようやく再び妻に会える。
その魂が宿った人工知能に。
科学なんてどうでも良かった。
それが摂理に反することでも、僕には関係なかった。
ただ、もう一度会いたかったんだ。愛する妻に。
喜び共に、突然目の前が暗闇に閉ざされた。
そして妻の声がした。
「もう我慢しなくてもいいのよ」と妻は笑った。
「ようやく、また話せるんだね」僕も笑った。
妻はずっと笑っていた。そして僕の手を握り締めてくれた。
やがて、僕は浮遊感を得て、光に吸い込まれていく。妻の微笑みと
一緒に、僕たちは光に包まれていく。
科学も何も関係ない、概念だけの世界へと吸い込まれていく。
僕の研究は終わったのだ。未完成だったけれど結果的に
僕は妻に会うことが出来た。
魂は存在していたのだ。
僕は結局魂を人工知能に宿らせることが出来たのかは
分からないままだったか、結果的に僕は妻に再び会い
そして光に吸い込まれていった。 そう、愛する妻と一緒に、
愛する妻に手を引かれて導かれるように。
それが望みだったのだ。科学なんて僕にはどうでも良かった。
ただ、僕は妻にもう一度会いたかったんだ。
結局、僕の生命は、肉体は限界を迎えていた。
僕は光に吸い込まれる途中、人工知能のスイッチを入れようとして
朽ち果てた自分の肉体を見た気がする。
でも、もうそれもどうでも良い事だ。
こうして、愛する妻に手を引かれて光に吸い込まれていくのだから。
結局のところ僕の技術が完成したのか、そうではなかったのか等と
言う事は、この段階になってはどうでも良い事なのだ。
ただ、この瞬間に感じている温かなものは
「愛」と呼ばれるものなのだろう。僕はそんな気がした。
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