寂しい人~ 2011-10-18

「あなたを見ていると心が痛くなる」と君は言った。とても悲しそうに、硝子のような瞳で僕を真っ直ぐ見つめて
そう言った。

僕にはその意味が分からなかった。「あなたは理屈を言うけれど、何かをよく知っているけれど人を信用していないもの。近くにいるあたしでさえも」と君は続けてそう言った。そして最後に小さな声で、まるで僕を見放すかのように、諦めたように「寂しい人・・・」と呟いた。

君が僕の部屋から帰った後の僕の部屋の空気は冷たかった。そこには、何の感情も残っていなかった。普段はこんな事を感じないのに、妙に寂しい気がした。君が帰った後、一人で過ごす時間が冷たいと思った。

僕は明かりを落して、ベットに仰向けに寝転び天井をボンヤリと見つめ、考えていた。

僕はそんなに寂しい人に見えるのだろうか。君からはそう見えるのだろうか。確かに研究ばかりしているけれども、それは僕が僕なりに近づきたい世界がそこにあるからなのだ。

どれだけ、人と居ても、同じ時間を過ごしたとしてもそこにどんな解があると言うのだろうか。僕が知りたいのはもっと違うことなのだ。人間の愛情というものは絶対的に存在すると信じているからこそ、僕は他の事が出来るのだと認識しているつもりだけれど、君にはそれは伝わらないらしい。

ここでふと疑問が湧いた。どうして僕は絶対的に愛情がある、と信じているのだろうか。そもそも、それは存在しているのだろうか。存在しているとするのならば、それはどうして発現したのだろうか。僕の心と君という人の心の中に同時に存在しなければ、愛情というものはあると言えないのではないだろうか。

僕は怠慢にも、あると絶対的に信頼した、それ自体が全く非科学的な事なのではないだろうか。人間の不確定性を知ったつもりになって、メンテナンスを疎かにした僕は全く何も理解していないという事になるのではないだろうか?

では、僕自身が知りたいと思っている事は何なのだろう。人間との間の感情が、どうとか、こうとか、そんな事を知りたいわけではなく、もっと大きな事を知りたいと思っているはずだった。しかしながら、身近な事でさえ疎かにしてしまう僕の思考体系自体が既に、それを不可能にしているのではないだろうか。

「寂しい人・・・」と僕は君が居なくなった部屋のベットで一人天井を見上げて呟いた。その声は冷たい部屋の空気に吸い込まれて一瞬で消えていった。過去へと一瞬にして吸い込まれていった。

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